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「もう一度会いたいと思った。その時の気持ちは本当だと思うから。」
prologue
-side-A-

 

 

 

 

 

アスカの声が響き渡る

 

僕が寝ぼけ眼を擦る

 

アスカが顔を赤くして怒る

 

母さんが料理しながら呆れる

 

父さんが新聞を見ながら頷く

 

僕とアスカが通学路を走り抜ける

 

僕と綾波が出会い頭に衝突する

 

綾波は明るく去って行く

 

アスカはそれを見てまた怒る

 

僕とトウジが朝の出来事で盛り上がる

 

ケンスケが窓に乗り出してカメラを構える

 

ミサトさんが颯爽と車から降りてくる

 

三バカトリオがミサトさんを見て騒ぐ

 

アスカと委員長がそれを見て怒る

 

ミサトさんが元気よく教室に入ってくる

 

綾波がミサトさんの後ろから現れる

 

僕とアスカは綾波を見て驚く

 

綾波は僕とアスカを見て驚く

 

アスカと綾波が喧嘩を始める

 

委員長が騒ぎ出した皆を諌める

 

ミサトさんが面白そうに先を促す

 

アスカと綾波は言い合いを続ける

 

僕はおろおろするばかり

 

 

 

 

 

暗転






僕は戦闘訓練を受けた戦士だ

 

僕は父に呼ばれた理由を知っている

 

僕はミサトさんが来るのを駅で待っている

 

第三使徒が山の向こうから現れる

 

僕の上には攻撃されたVTOLが落ちてくる

 

僕はそれを難なく交わす

 

ミサトさんが遅れて来て僕と合流する

 

僕と父さんの意味深な会話

 

僕は初号機で出撃する

 

第三使徒と退治する僕

 

僕はあっという間に使徒を倒す

 

驚く発令所の皆

 

司令塔でにやりと笑う父さん






暗転






僕とアスカと綾波は大学生だ


皆でサードインパクトを乗り越えた


三人は仲良く大学生活を送って行く


ある日僕とアスカがSEXをする


その内綾波ともSEXする


三人の仲が不協和音を奏で出す


綾波が自殺を図る


アスカが泣き叫ぶ


僕等は只曖昧なままゆらゆらと


怠惰に、只、怠惰に


壊れてゆく






暗転






僕は選ばれた勇者だ


魔王を倒す為旅に出る決意をする


旅の途中赤い剣士アスカと出会う


色々あって仲間になる


次ぎに現れるのは白き魔女綾波


何だかんだで仲間になる


今度は腕利きの盗賊トウジだ


やっぱりその内仲間になる


旅の途中王国に立ち寄る


そこで会うのが王子カヲル


案の定仲間になる


皆で魔王を倒しに島へ向かう


そこで待っていたのは魔王ゲンドウ


僕の父さんだった


僕は苦渋の末父さんを倒す


死に際に父と息子は和解する


僕は王国へ帰り英雄になる


カヲルとレイは結婚する


トウジも仲間のいる所へ帰って行く


村へ帰った僕とアスカ


ささやかに二人は式を挙げ仲良く暮らした






暗転






僕はネルフの総司令だ


ミサトさんは副司令だ


アスカは作戦部長だ


使徒がまたやって来た


エヴァに乗るのは僕とアスカの子供達だ


娘達を戦地に送る事に僕は苦悩する


アスカが涙しながらそんな僕を叱咤する


娘はそんな父でも誇らしく思ってくれる


僕等はそんな中使徒を倒し続ける


でもある日娘が真実を知る


娘は実は僕と綾波の子供だった


弟とは違う事を知り苦悩する娘


そんな娘に僕は惜しみない愛情を注ぐ


娘は再び戦いに赴く






暗転






僕とレイが結婚式を上げる


幸せそうに微笑む僕とレイ


悔しそうにしながらも祝ってくれるアスカ


喜んでくれるミサトさん


御祝いの品をくれるリツコさん


男臭い笑みを浮かべる加持さん


料理を頬張るトウジ


それを叱る委員長


ビデオを撮るのが忙しいケンスケ


涙を流すマヤさん


司会をしてくれる日向さん


ギターを弾いてくれる青葉さん


終始穏やかな笑みの副司令


照れている癖に喜びを隠す父さん


幸せで人生最良の一日






暗転






アスカが死んだ


レイも死んだ


みんな死んだ


僕だけ生きてる


絶望に暮れる僕


それでも死ねない僕


それでも生きていく僕


励ましてくれる友人達


でも僕の時は止まったまま


やがて転校生がやって来る


その娘はアスカに良く似ていた


その娘は綾波にも良く似ていた


僕はやがてその子に興味を惹かれる


その娘もやがて僕に興味を持つ


やがて止まっていた時は動き出す






暗転






僕の隣にアスカが寝転んでいる


アスカは包帯で巻かれぼろぼろで寝ている


空は瞬く満天の星空で血の虹が掛かっている


海は真っ赤で原罪の穢れ無き海


人類の溶けた命の水


生命のスープ


量産機が貼り付けにされて突き刺さっている


その向こうにリリスの巨大な顔が笑っている


綾波の顔で笑って顔が縦に割れて崩れていく


海の上に綾波が立っていた


制服で陽炎の様に立っていた


僕は目を見開く


でもそこには何も無い


僕はのそりと起き上がりその場所を凝視する


でもそこには何も無い


僕は思い出した様にアスカを見る


アスカは全く反応を見せずに寝転がっている


僕はアスカに馬乗りになる


聖痕の付いた手をアスカの首に添える


ぐいと手に力を入れる


アスカは全く反応を見せずに寝転がっている


僕は首を締め続ける


アスカの右手がゆっくりと持ち上がる


右手が僕の頬に添えられる


僕はハッと目を見開く


アスカは虚ろな目で寝転がっている


僕の手から力が抜けた


僕は泣く


僕は鳴く


ぼくはなく


ボクハナク


アスカの目がぎょろりと僕を見た


世界は静寂に満ちていた


命の海が波の音だけを運ぶ


アスカが気持ち悪いと呟いた






 






「フッ...フッフフフフ、クククククッ...」



笑い声が木霊する。耳障りな、嫌らしい忍び笑い。誰だよ。気持ち悪い。



「フフフフフフッ...ハハハハハハハハハハハ」



忍び笑いが本格的な笑い声に変わった。反響する、嘲笑。


嘲り、嫉み、恐怖、怒り、憎悪、嫌悪、苦悩、羨望、哀情、絶望。


感情が直接、拡散し、反射し、自分に直接還って来る。


分かっている。これが誰の感情なのか、誰の笑い声なのか。



「ハハハハハハッ、ハッ、クッくくくっくくっくっくくくくくく」



止まらない。


笑いが止まらない。


だってそうじゃないか。



「クククククッ...フッ...ハァ、ハァ、はぁ、はぁ」



漸く収まってきた笑いと共に、湧上って来たのはどうしようもない程の『嫌悪』。


気持ち悪い。


確かにアスカの言う通りだ。気持ち悪い。



「フッ...これが“ボク”か。そうか。」



認めた後に湧上って来たのは、どうしようもない程の『憎悪』。


むかつく。何でこんなモノが生きていた?


良くもまぁ、今まで平然と暮らしていたものだ。


一人前に悩んで見せたたって所詮振りだ。


そんなものは意味も無い。



「やっと、やっと分かったよ。」



そう。認めるのが恐かっただけだ。


自分と言う存在が純粋なモノだと信じたかっただけだ。


そんな資格すらも無いと言うのに。身の程知らずな。



「そう言う事なら、望みは一つだ。」



傍らにアスカだったモノが転がっている。


海の向こうに綾波の顔が割れている。


人々は海の中でまどろんでいる。



これが宇宙の心理だったのかもしれない。


永い永い年月がこれを作り出したのかもしれない。


果たしてこれは夢なのだろうか。


それとも現実なのだろうか。


目が醒めた時に待っているのはなんだ。


幻想なのか?


現実なのか?





でもそんな事はどうだっていい。


そう。


今いる自分だけが、世界の全てだ。






「俺を戻せ。あの日の、第三新東京市に。」

世界が弾けた。

Lunatic Emotion
第1章
- 望んだ過去、望まぬ未来 -
Present by NaoXYZ

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First edition:[1999/10/25]